損害保険事業における「共通化・標準化」の意義と今後の展開 Vol.6 「共通化・標準化」への歩み 適切な業界協調とは①

保険業界・時事

本記事は栗山氏執筆のInswatch Professional Report【第112号】2013.02.22【損害保険事業における「共通化・標準化」の意義と今後の展開】を、許可を得て転載する記事であり、複数回に分けて掲載をしております。

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損害保険事業における「共通化・標準化」の意義と今後の展開 Vol.1 はじめに | 企業代理店port (kigyodairiten-port.com)

以下転載部分

3.「共通化・標準化」への歩み(1)「適切な業界協調」とは・・・・

損保協会の第六次中期基本計画(2012 年度から2014 年度までの3 年間)は、次の5つの重点課題から成り立っている。

①事故・災害・犯罪の防止・軽減による社会的損失の低減
②共通化・標準化の推進による消費者利便の向上と業務効率化
③消費者の声を起点とした業務品質の向上
④要望・提言機能の強化による事業環境の維持・改善
⑤東日本大震災の経験を活かした地震保険の一層の普及と巨大災害に備えた業界態勢の強化

この5つの課題がどれも重要なことは言うまでもないが、本稿においては、②の「共通化・標準化」が直接のテーマであり、①の「社会的損失の低減」は「業界協調」による施策の実施が必須の課題である。

ここに至るまで、本稿では「共通化・標準化」と「業界協調」を類語のように記してきた。

言うまでもなく、「業界協調」は手段であり、「共通化・標準化」は結果である。

「社会的損失の低減」も同じく結果である。かつての「業界協調」には独禁法に抵触するような「不適切な業界協調」があり、そのために排除されるべき「共通化・標準化」等の結果が存在した。

ここで明確にしておきたいことは、「業界協調」そのものは常に排除されるべきものではないということである。

排除されるべきは、あくまでも「不適切な業界協調」とそれによって生まれる「共通化・標準化」等の結果である。

今回の第六次中期基本計画は、③、④、⑤における「業界協調」にはなんらの問題がないものの、①の「社会的損失の低減」と②の「共通化・標準化」には独禁法に抵触する「不適切な業界協調」が混入する可能性がある。

では、「適切な業界協調」とは何か、これを整理するために、独禁法上の問題、諸外国の現状の2つの点から述べたい。

①独禁法上の問題

ここでは詳細は記さないが、保険業法上、昔も今も一定の範囲において保険は独禁法の適用除外となっている。

かつての「日本機械保険連盟事件」は保険業法上の独禁法適用除外を逸脱した行為がなされていたことを理由に損害保険各社は罰せられることとなった。

そして損保業界は、この事件を契機にごく一部の行為を除き「業界協調」すなわち業界としての共同行為を廃止することとなり、当時の自由化・規制緩和による競争促進の流れは、この動きに大きく拍車をかけることとなった。

しかし、損保事業は、保険という商品が大数の法則を基本とするものであるため、競争関係にある会社が一定の範囲において共同で料率算出作業をしない限り、そもそも事業が成り立たないという特性のある事業である。

また、料率算出の基礎として担保内容を標準化する必要があるとともに、保険契約者の保険商品理解促進のため、すなわち消費者政策の観点から標準約款を必要とする事業である。

このように、保険としての特性と消費者保護の観点から、保険業法に明記された地震保険や自賠責保険等、限定的に列挙された分野だけでなく、時々刻々の状況変化の中で必要な行為に関しては保険会社の共同行為が必要になるのが損保事業である。

そして、このように考えるときに積極的に活用すべきなのが、独禁法を司る公取委が設けている「事業者等の活動に係る事前相談制度」である。

この制度は、事業者や事業者団体が行なおうとする具体的な行為が、独禁法の規定に照らして問題がないかどうかの相談に応じ,書面により回答するというものである。

また、事前相談制度とは別に、メモや口頭で気楽に相談できる「一般相談」がある。

例えば、前述の業界統一の「損害保険募集人一般試験」は、これを活用して公取委に相談したという経緯がある。

今後、業界として必要な共同行為を、法に違反することなく実施するために、公取委が設ける事前相談制度や一般相談はもっと頻繁に活用すべきである。

この活用を通じて、損保業界が公取委の担当者と具体的な課題に基づいて議論する機会が多くなり、公取委において、損保事業がどのような特性を持つ事業であるかについての理解が深まるのではないだろうか。

公取委に損保事業の具体的な内容や特性を知らせるためには、損保業界として、独禁法に精通した弁護士と議論するだけではなく、公取委との直接の対話という不断の努力が必要である。

そして、こうした公取委との直接の対話という過程を経て定着する「業界協調」こそが、公取委と損保業界の双方が納得できる「適切な業界協調」なのである。

転載部分以上

次回予告

次回は適切な業界協調について、諸外国特にアメリカとEUの例を取り上げて説明していく記事になります。

↓次回Vol.7はこちら
損害保険事業における「共通化・標準化」の意義と今後の展開 Vol.7 「共通化・標準化」への歩み 適切な業界協調とは② | 企業代理店port (kigyodairiten-port.com)


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